特集

探求の先へ。実験を繰り返し生まれる音の哲学。
~agraph インタビュー~

2016年2月3日に待望のagraph 3rdアルバム『the shader』がリリースとなった。前作より5年以上の歳月を経て制作されたアルバムは、「おかえりなさい」そんな言葉が自然とこぼれてしまうような音の温もりでagraphが生み出す叙情的な世界観に包み込まれる作品となった。

過去2作のアルバムを踏襲し、かつ繰り返し実験される音の探求の先に見出される哲学とは。


Interview & Edit:飯寄雄麻(2.5D) / Photo:谷浦龍一(2.5D)



2008年に『a day, phases』、2010年に『equal』、そして5年以上の歳月を経て3rdアルバム『the shader』がリリースとなりました。完成された作品についてお聞かせいただけますか。

agraph:一聴するとすごく聴きづらいと思うんですよ。明確に歌えるメロディという訳でも、ハーモニーが流麗な訳でも、踊れるビートが鳴っている訳でもないんですが、今回その三つの要素どれもが僕は必要無いと思ったんです。明確ではないメロディ、塊になっているコード、踊れないリズムを意図的に配置することでそこから生まれる世界観を表現したかったんです。過去2作品というのは電子音楽的なジャンル、メロディがあってコードがあってリズムがあって、いわゆる”音楽然”としていたんですけど、今回はもっと俯瞰的にそれらを捉えて音楽の三要素に縛られずただただ雰囲気を望む形に創り上げたくて。これまでの作品、あるいは自分らしさみたいなものも素材でしかなく、その中で世界観を構築していきました。そういった制作は新しい発見だったし、とても満足度が高いですね。一方で、聴いてくれる人がどういった反応をするのかすごく不安です。

2ndアルバムの『equal』の際には自分に嘘の無い芯に近づけた作品だったと仰っていましたが、これまでの作品やご自身すらもサンプリングしていったと。

agraph:そうですね。今回制作期間はまるまる5年かかっていて、2010年の『equal』をマスタリングした日に次作に向けての制作を始めたんです。そこから2年ぐらいかけて形になるんですが、あまりにも2ndアルバムの単なる発展系になってしまったので、それを一度放棄してそのアルバムをサンプリングネタ、楽曲を作る上での道具として捉えて再度作り直したのでこの5年間本当に休まずに制作していました。今回の作品では、ミュージシャンとしてではなく個人的な音楽やアートの嗜好に近づけたという印象が強く、かなりパーソナルな部分まで肉迫できたかと思います。

アルバムタイトルとなっている『the shader』、どのような意味が込められているのでしょうか?

agraph:”shader”って3DCGにおいて陰影処理を行うプログラムでそこからヒントも得たんですが、単語自体は”影を生成する”や”影を作る”という意味なんです。例えば光で何かを照らした時に、光が遮蔽されて影ができる。その影によって、照らしているものが何かを認識することができて、物理現象としても観測できる。光りに照らされている何かではなく、その影自体の存在を叙情的な世界観の礎にしたので『the shader』というタイトルになりました。

なるほど。

agraph:ただ、過去2作に関してはそういった文学的なコンセプトを大事にしていたのですが、今回はそういったコンセプトからも距離を置いて俯瞰的に捉えて作品の世界観でコンセプトすらも表現したかったんです。作品のタイトルやコンセプトも、もう立ち昇る湯気でしかないというか。器にどんな料理が入っているかよりも、どういう器にどう盛りつけられているかの方が大切だったんですよね。

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どういった制作過程を経て作品を形にしていったのでしょうか。

agraph:最初はコンセプトワークから入っていて自分にとって次はどういった作品を作るべきか、どういう音楽を目指し思考するのか、などを考えます。それは大学時代にスティーヴ・ライヒリュック・フェラーリといった現代音楽に触れたことで、まずは背筋を伸ばす為の背骨になるコンセプチュアルなものを軸に、その概念や哲学の中で制作を進めていくようになりました。形としては鍵盤でまずは音を奏でるのでメロディやコードを弾くのですが、そこから実験が始まっていくので必ずしも最初の形が最後まで残るとは限りません。

その”実験”という姿勢が、agraphとしての音楽性に繋がるんですね。

agraph:agraphという名義では電子音楽や打ち込みといった音楽になるんですが、その大きなマーケットにあるのはやはりダンスミュージックだと思うんです。そのダンスミュージックが基本にある中で、そうではない電子音楽の形。家で一人で聴いていても、自分の気持ちが深く潜っていけるようなすごく懐の深い音楽だと思うんです。そういう実験の先にある探求みたいなものを一人でやっていくことが、自分にとっての個性だと思いますね。

▶次のページでは、『the shader』の魅力とは。制作の裏側を掘り下げる。
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agraph

agraph

牛尾憲輔のソロユニット。

2003年、石野卓球との出会いから、電気グルーヴ、石野卓球、DISCO TWINS(DJ TASAKA+KAGAMI)などの制作、ライブでのサポートでキャリアを積む。

ソロアーティストとして、2007年に石野卓球のレーベル〈PLATIK〉よりリリースしたコンビレーションアルバム『GATHERING TRAXX VOL.1』に kensuke ushio 名義で参加。

2008年にソロユニット"agraph"としてデビューアルバム『a day, phases』をリリース。石野卓球をして「デビュー作にしてマスターピース」と言わしめたほどクオリティの高いチルアウト・ミュージックとして評価されている。

またWIRE のサードエリアステージに07年から10年まで4年連続でLIVE出演を果たした他、先日最新アルバムの完成が発表されたUnderworldの2010年10月の日本公演でのフロントアクトを務めた。

2010年には2ndアルバム『equal』をリリース。そして2016年2月、待望の3rdアルバム『the shader』を完成させた。

http://www.agraph.jp/

the shader

the shader

Artist : agraph
Title : the shader
Release Date : 2016.2.3 (水)
Cat No : BRC-497
Price : ¥2,400 (+ Tax)
Label : Beat Records
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MTV81

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MTV JAPANが世界的ネットワークを駆使し、海外に向けてジャパンカルチャーを発信するプロジェクト。海外目線による独特の切り口で、日本のアーティスト・イベント・ファッション・カルチャーなどを紹介する、まさにMTVだからこそ可能な世界をまたぐグローバルな番組。

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