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アイドリング!!! 9年間総括 ~吉田尚記 語り起こし~

「現在進行形で成長するアイドル」として番組内外で活躍してきたアイドリング!!!。2015年10月31日(土)をもって全員卒業することが発表され、10月5日(月)には集大成となる最後のナンバリングライブも行われました。

これまでTOKYO IDOL編集部では、メンバー、番組関係者を含むアイドリング!!!チームへのインタビュー、関わりの深い著名人から寄せられたコメントからアイドリング!!!に対するそれぞれの想いを切り取りました。

そして今回の吉田尚記氏による「アイドリング!!! 9年間総括」と題した本記事にて、全8回に渡る「アイドリング!!!全員卒業特集」の幕を下ろします。アイドルシーンにおけるアイドリング!!!の存在意義、そして彼女たちが抜けたアイドルシーンの行く末とは。卒業前夜だからこそ、是非ご一読ください。


構成:石井龍(2.5D)

pp8_yoshida1吉田尚記(ニッポン放送アナウンサー)

【唯一広い世界を前提に作られたアイドル】

アイドリング!!!の歴史的意義をひとつ挙げるとすれば「アイドルシーンの火を消さないでくれた」ということが大きいのではないかと思います。同時期に活動を開始したAKB48も自分たちだけで今のAKBの状況を作り出せたかというと、決してそうではないと思いますし。そこに続くももいろクローバー(Z)にしても、アイドルシーンがあったからこそ生まれたものなので、「繋いでくれた」ことが第一義的に大きな意義のはずだと思います。

あくまで体感値ですが、アイドリング!!!が生まれた当時のアイドルの総数と、今の総数とでは100倍くらいの差があるのはないでしょうか。結成当初の話を聞くと、アイドルになりたくてアイドリング!!!に加入した子はほとんどいなかった様子。この時代、アイドルといえばハロー!プロジェクトという気風はありましたが、ハロプロに入門する子はアイドルになりたいというよりもハロプロに憧れて門を叩くといった印象があります。つまり、「アイドルになりたい!」という欲望が存在しない世界で、唯一広い世界を前提に作られたアイドルがアイドリング!!!です。

今のアイドルシーンを見ると最大勢力は48グループですが、当時の極めて小さなアイドルシーンの双璧をなしたのがAKBとアイドリング!!!。そのコラボグループでもあるAKBアイドリング!!!の存在からも、アイドリング!!!が今のAKBになれた可能性は十二分にあったことを証明しています。パフォーマンスにおいても大差はないですし、ハロプロがいる状況下においてはどちらも”プロのアイドル”ではなかった。

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【フジテレビという存在、変化する価値観の中で】

ただ、AKBには秋元康氏がいて、アイドリング!!!はフジテレビが生み出したアイドルという違いが、最大のポイントに思えます。これまでヒットしてきたグループを追いかけると「2ヶ所以上から同時期に褒められると人の価値観は変容する」という、大きなヒントが浮かび上がります。誰かひとりに「いいよ」と言われて自分の価値観を変えるのは意外と難しく、留保の域を出ないんです。それが別のところからも「いいよ」と言われて初めてその人の中での評判、コンテンツの持つ意味が変わるんですね。そうした見方をするとアイドリング!!!はフジテレビで”しか”レギュラー番組を持たなかったというのがポイントのように思えます。

また、フジテレビというメディアでレギュラー番組を持つことで露出はキープされますが、今は露出の「量」ではなく「質」が問われる時代に突入したということも浮き彫りにしました。AKBもハロプロも当時はひとつのテレビ局にしか出ていませんが、メディアとコンテンツの関係でいうと一線を画しています。パフォーマンスをしたことで誰に褒められるか、支持されるかという視点で見たときに、フジテレビにしか出ていなかったアイドリング!!!と縦横無尽に露出の機会を獲得できたAKBとでは褒められるルートの数が変わってしまったんです。

当時はアイドルシーン自体がないために現在のようなインディーズスタイルで活動することは相当難しかったはず。そうした状況下においてフジテレビというメディアと資本を持つ組織が裏側を支え、伝統の火を絶やさぬようにアイドルとしての多様性を生み出したアイドリング!!!の功績は計り知れませんが、シーンがないということは状況を批評しようにも、批評する状況がないということ。明確な音楽的コンセプトを持たないまま活動をした結果、広く浸透した一番の楽曲が『職業:アイドル。』だったこともある意味納得です。

メディアに出れば良い、キャピキャピすれば良い、バラエティ的に面白いことをすればいいー。そうした旧世代の手法を全てまっとうに行うことで、今の立ち位置を築き上げましたし、それゆえアイドリング!!!以降のアイドルたちがその方向を目指さなかった。例えばファンの呼び方にしても、ももクロがファンのことを「モノノフ」と呼称したこともアイドル戦国時代を生き抜く仲間という意味もこめて的確だと思いますが、アイドリング!!!が「ファン様」と呼ぶことも時代とズレていたように思います。そうした「旧世代のアイドル」という役目を引き受け、精算したのがアイドリング!!!ではないでしょうか。

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【メディア発だからこその精神性】

「精算」という意味では、アイドルとしての見られ方の価値観も精算しています。Berryz工房や℃−uteが「誰かの娘」という見られ方を体現したことが象徴するように、昔のアイドルは「仮想の彼女」でしたが、それが今「仮想の娘」に変わりました。当然「仮想の娘」が求められるシーンにおいては娘としての見え方が一番美しい存在がヒットする。BABYMETALやももクロなど、「みんなの娘」という見られ方にアイドルシーンの主流がうつりゆく中で「仮想の彼女」という旧世代の手法を引き受け、そして旧側の価値観を畳んだのもアイドリング!!!でした。

AKBとアイドルシーンの双璧をなした状況下で爆発できなかったという意味では、惜しいという気持ちが強いですが、シーン全体として見るとやはり必然。ただ、ひとつ言いたいのは決して無策ではなかったということ。バラエティ番組を毎週放送するという縛りがそうさせたのか、7期生加入の流れにしても最後までお客さんを楽しませようという精神に溢れていました。

僕がMCをしていた『ぽにきゃん!アイドル倶楽部(ニコニコ生放送)』で自分に課した役目はアイドリング!!!の武装解除です。アイドリング!!!にはバラエティとして面白くさせようという意識があるので、観ている人がただ癒されるような、いかにして自然な状態を引き出せるかが課題でした。佐藤麗奈さんがハリー・ポッターの話をオチなく続けていたことが相当面白かったですし、NEO期生を加入させ新たな血を入れるという仕掛けも面白い。そういう意味でも惜しい、という気持ちが強いです。決して無策ではなく、全てのアイドル、制作、運営がそうだと思いますが、当たるか当たらないかは運次第の部分も多分にあります。

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【アイドリング!!!が残したもの】

アイドリング!!!がなくなることで何か構造的に大きな変化が生まれるかというと、残念ながらそれはないと思います。ただ、彼女たちは「しかたないな〜」と言いながら、進んで動いてくれる子たちです。僕が放送でよく伝えることは「アイドリング!!!は幸せになってほしいアイドル」ということ。「アイドル冬の時代」からこんなにも苦労を重ねている。1期生の外岡えりかさんなんかは本当に苦労していると思うんですよ。泣いてもいいという状況はたくさんあるのに、ベースとしてクールな装置がついてるからあんまり泣きにもこない。そうした全ての状況をひっくるめ、本当に幸せになって欲しいアイドルです。

アイドリング!!!がホストとして作り上げたTOKYO IDOL FESTIVALはフジテレビのフェスではなく、公共物にすることに成功しています。第1回目当時は何かしらの豪腕が必要だったため、ホストという役目を引き受けたのもアイドリング!!!。AKBにもハロプロにもフェスはできなかったと思います。その立ち上げのタイミングに必要とされ、現在のアイドルシーンの定礎となったのもアイドリング!!!。

アイドリング!!!は歴史的役目を果たし、そのまま全員卒業という墓標を残していく。売れることにつながることだけが意味があるとするならば、無意味な苦労をたくさんしているかもしれませんが、売れることだけが価値ではないじゃないですか。僕は「アイドリング!!!が嫌い」という人を聞いたことがありません。

吉田尚記(よしだ・ひさのり)
1975年12月12日、東京・銀座生まれ。
ニッポン放送アナウンサー。2012年に『ミュ〜コミ+プラス』のパーソナリティとして「第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞」受賞。「マンガ大賞」発起人。2015年1月に発売した著書『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)が累計12万部(電子書籍を含む)を超えるベストセラーに。
マンガ、アニメ、アイドル、落語、デジタルガジェットなど、多彩なジャンルに精通しており、年間数十本におよぶアニメイベントの司会を担当。ラジオ番組、イベント、連載を通して、年間100人以上の声優・アニメクリエイターにインタビューし、アニメソングのDJイベントを自ら企画・主催。デジタル関係にも強く、ガジェット系雑誌での連載を持つほか、IT会社「株式会社トーンコネクト」の代表取締役CMOを務める。
Twitter(@yoshidahisanori)フォロワー数:13万(2015年9月現在)※ラジオアナウンサーとしてはダントツ