特集

西廣智一の「ディスクレビューの実験台」
~vol.0 編集会議編~

WEBメディア「ナタリー」の立ち上げに参画し、現在もWEBや雑誌を中心に活動する音楽ライター・西廣智一氏の連載がスタートします。
ももいろクローバーZや乃木坂46をはじめとするアイドルからLUNA SEA、GLAY、VAMPS、DIR EN GREY、Hi-STANDARDなどのロックバンド、METALLICA、JUDAS PRIEST、オジー・オズボーンなどの海外勢まで、様々なアーティストに取材を行う西廣さんにディスクレビューをしてもらおう、というところまでは決まったものの「実際にどうする?」と、話し合いがストップ。そこで交流の深い構成作家・エドボル氏をお呼びして作戦会議を行いました。

Edit:石井龍(2.5D)



【アイドルの数が相当増えているので、良くも悪くも聴きづらい】

大枠としてはディスクレビューをして頂こうと思うのですが、どういう切り口で紹介するかといことがまだ決まっていない状況です。チャートミュージックを紹介するのか、隠れた名盤を紹介するのか、無作為に今おすすめの1枚を紹介するか……など。

西廣智一(以下、西廣):なにをするか、決めないとですね。

エドボル:今日は連載会議もですが西廣さんがどういう人物なのか紹介もできればいいかなと。そもそも西廣さんはハロー!プロジェクトがきっかけでアイドルソングを聴き始めたんですよね?

西廣:そうですね。もっと元を辿ればTPD(東京パフォーマンスドール)とかもありますけど、今の自分は完全にハロー!からですね。

エドボル:今のハロー!も聴いていますか?

西廣:全部聴いています。ひとつ理由があるとすると、複数仕様がないから。1枚買えば全て聴けますし、最悪iTunesでも購入できるし、楽なんですよ。

エドボル:スマイレージのインディー時代とか一時はハロショ(ハロー!プロジェクト オフィシャルショップ)に行かないと買えないものもありましたが今はほぼないですからね。

西廣:以前はカップリング違いもありましたが、最近はジャケット違い、特典DVDの映像違いのレベルなので、音源に関しては通常盤を1枚買えば把握できます。今のハロー!はカントリー・ガールズも楽しみですし、こぶしファクトリーも期待してるのですが、他のグループでいうとこの1年半くらいは正直けっこう漏れがあると思います。

エドボル:昔と違って今はアイドルの数が相当増えているので、良くも悪くも全ては聴きづらい状況にはあると思います。普通にみんなが聴いているはずの曲を聴けていなかったり、それこそ売れている48グループの曲だから知っている、という状況すらなくなっていると思います。

西廣:以前はオーバーグラウンドにある音楽はなんとなく把握できていたんですけど、今は裾野が広がり過ぎて、自分の興味のあるものにしか聴けていない。そういう意味では掘り下げたものを紹介するのは今はそれほど需要がないように思うんです。ムック本などを通じて色々な方がレコメンドをしていますし、リアルタイムでこれだけ新譜がでているので、まっとうに扱うのがいいかなと。

エドボル:この「TOKYO IDOL」というメディアでやるとしたら、TIFをきっかけに知る人もいるでしょうし、テレビをきっかけで知る人もいると思うので、窓口は大きいほうが合っていると思います。掘り下げ過ぎたものを紹介するよりも、それこそAKB48のカップリングを紹介するとか。そこまで聴いていない人って、たくさんいますよね?

いわゆる”国民的グループ”の楽曲でも、正直知らない楽曲はたくさんあると思います。

エドボル:とはいえ、カップリングの中でも絶対に名曲ってあるじゃないですか。

西廣:実際問題、チャートの上位に来るようなグループでも知らない楽曲って多いですしね。

エドボル:例えば「アイドリング!!!の最新曲知ってる?」と質問したときに、アイドリング!!!のファンはもちろん知っていると思いますが、そのファンに「AKB48の最新曲は知ってる? モーニング娘。’15の最新曲は?」と聞いていくと、届いていない部分は確実にあると思うんです。チャートの上位にきて、結果も残しているのに横の広がりは思いのほかなかったりするのがもったいないなと思うことがあります。最近の話しでいうと自分はSKE48の新譜がなにか、即答できなかったことがあったり。自分の音楽の聴き方としても追いつかないので溜まってからまとめて聴く、という方法になってきています。

西廣:HKT48みたいにアイテム数が少ないものは比較的わかりやすいのですが、タイトル数が多いAKB48、SKE48などは正直ついていけなくなってきています。

ついていけている人っているんですかね?

西廣:きっと本当に好きな人で、他の支店には振り向かないような人だと思います。

エドボル:盤のタイプが複数あって、劇場盤もある。3ヶ月ごとにアルバムがリリースされているようなもんですよね。

【情報が多すぎるからこそシーンのド真ん中ですら追いつけない。】

では、音楽を聴く状況で今までと一番何が変わったかというと。

西廣:数ですね。

エドボル:ですね。普通に計算すると、48グループの新譜を全て追いかけていたら再生時間的に丸1日経ってしまって他の楽曲を聴く時間がなくなるんですよ(笑)。もちろん、みなさん日常生活もあるわけですし、物理的に厳しくなってきます。それに昔の曲を聴きたくなったりもしますし。

西廣:僕なんてAKB48に関して言うと、3月に発売された『Green Flash』を6月に入ってようやくちゃんと聴きましたし。というぐらい、とにかく今は聴くべきものが多すぎる。

エドボル:6年前にTIFが初めて開催されたときは全出演者を合わせても40数組なんですよ。それにハロー!と48グループを足せば当時はほとんどのアイドルが網羅できたといっても過言ではなくて。それが今どうなっているかというと、TIFに出演するアイドルだけでも140組以上、出演できないグループが何百組といる中での数字です。そのグループが1年間で数枚のCDをリリースしたとしても膨大な数の楽曲が生まれます。好きなグループの情報は当然知りたいから調べたりしても、それ以外のグループとなるとついていけなくなるだろうと。

西廣:ですね。ただ、その中でも聴いてほしかったり、聴くべき楽曲はありますからね。

少し話しは逸れますが、であれば状況的にプレイリストを作る音楽サービスなどは便利ですね。

エドボル:昔であればクラブDJがその役割を担っていましたよね。DJが曲をかけて、それがなんの楽曲か調べたり。

西廣:そうそう。ただ、アイドルDJとなるとまたちょっと違う。知らない楽曲をかけるというよりも知っている曲をかけて盛り上がるというような傾向も強いですし。

エドボル:今、アイドルDJ界隈でも最新曲をかけても反応が悪いんですよ。例えばAKB48であれば『大声ダイヤモンド』であれば盛り上がる。

西廣:最新曲=盛り上がる曲ではないですよね。でも、それって今のロックシーンでも同じことが言えて、最新曲が浸透するのに結構時間がかかってるように感じます。

エドボル:新しい情報が(調べれば)簡単に手に入る状況にはなっても、感情に届くまでにかかる時間は変わらないですよね。

西廣:情報が多すぎるからこそシーンのド真ん中ですら追いつけない。自分ごとですが、正直なところ新しい曲を聴く機会がどんどん少なくなっています。

エドボル:一昔前はそれほど楽曲が供給されていなかったから、ありがたかったんですよね。時代的に音楽が売れなくなってきた時に世の中に対して商業的な音楽を多く供給したのがアイドルやアニメのキャラソンくらいだったので、受容するのがありがたい時期がありましたが、時間が経って例えばロックのシーンでもアイドル的なアプローチでリリースするバンドが現れたり、アイドルにしてはそもそも数が増えすぎたり過剰になってきました。

西廣:シングルを仕様違いでリリースするのは、90年代のイギリスの悪しき習慣の名残ですよね。例えば1995年にオアシスとブラーがシングルを同じ週に発売したとき、オアシスは1形態しか出さなくて、ブラーは2形態出したからチャーで1位になれたとか、その話の延長線上ですよね、今の日本のアイドルシーンって。今思えば、だから当時は「カップリングベスト」というものが作れたんですよね。もちろん創作意欲がすごい方がシングル1枚に入りきらないので、カップリング曲を変えるために仕様を増やしたというケースもあると思いますが、それでもチャートを意識してというのがほとんどだったんじゃないかなと。

エドボル:受け手側は全部受容できればもっと楽しいはずですからね。

西廣:カップリングにクソ曲があっても「あー、やられた(笑)」みたいな感じで、その1曲でさえちゃんと聴いていました。

エドボル:「シンセ片手で弾いてる!?」のようなギャグみたいな曲もありましたよね(笑)。

西廣:そうそう(笑)。今はそれがクソ曲なのか、なんなのかすらわからない。そういうことを知れるガイドがない状況になっているので、そのガイドになるようなことができればとは思いますよね。わざと表題曲じゃない曲ばかりを選んだり(笑)。

『進め!電波少年』じゃないですけど、目隠しされてスタジオに連れて行かれて音楽を聴くとか(笑)。

西廣:それくらいやりたいですね(笑)。例えばヒットチャートのTOP50くらいからアイドルソングを無作為にピックアップして、そこからランダムに聴いてどれが良かったかなどをレビューするとか。たぶん情報が少ない方が良いんだと思います。事前情報を知らされたうえで「今回はこれをお願いします」だと、頭の中で事前にイメージを作っちゃいますし。なにも知らされていない状態で聴いてそれで気になる曲って、本当に自分の趣味に合った曲か、誰が聴いても良い曲かですよね。基準は色々あると思いますが、純粋な感想を言う方が、興味をもってくれやすいと思います。ファーストインプレッションや聴きこんでの感想、そのアイドルの知識がなかったら正直にそのことですらレビューする、ということをしたいですね。なので、「実験台になります」くらいの感覚かなと(笑)。

エドボル:生け贄ですね(笑)。

見えてきましたね(笑)。基本方針は編集部内でセレクトさせて頂いて、種明かしをせずに聴いて頂く。フタを開けて良いと思った曲がなんだったのか、その曲についてレビューをする、ということで第1回を行えればと思います。本日はありがとうございました!

西廣・エドボル:ありがとうございました。

西廣智一

西廣智一

音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

エドボル

エドボル

構成作家。TOKYO IDOL FESTIVAL2015(フジテレビ)、TOKYO IDOL PROJECT(フジテレビNEXT)、@JAM応援宣言!@JAM THE WORLD(SHOWROOM)の他、アップアップガールズ(仮)、Cheeky Parade、東京パフォーマンスドール、愛乙女★DOLL、さんみゅ〜などテレビ、ラジオ、ウェブなどでアイドルを中心に番組の構成を担当。