特集

西廣智一の「ディスクレビューの実験台」
~#1 2015年8-9月にリリースされた夏曲5選~

さあ、連載1回目だ。前回の作戦会議で決定した「ディスクレビューの実験台」というタイトルどおり、ここでは毎回僕が目隠しでアイドルソングを試聴して、それについてああだこうだと感想を述べていくことになる。ただ、当初の予定と異なり、「フタを開けて良いと思った曲がなんだったのか、その曲についてレビューをする」と1曲だけをセレクトするのではなく、今回は初回ということで特別に5曲すべてをレビューするという形に変更となったので、そこだけは最初に伝えておきたい。

「ディスクレビューの実験台」第1回のテーマは「2015年8〜9月にリリースされた夏曲5選」ということらしい。ここに正直に書いてしまうが、僕はこの夏、ほとんどアイドルソングの新譜を聴いていない。連日取材だ、地方出張だとバタバタしていたのもあるし、夏フェスに浮かれていたのもある。ことアイドルのライブに関して言えば、仕事で取材した乃木坂46に加え、ももクロ、エビ中、しゃちほこ、たこ虹、3B juniorといったスターダスト勢ぐらいだ。聴いた新譜CDに関してもこれらのグループに加え、一部のハロプロ勢に限られてしまう。48グループはテレビから流れてくるものを見聞きするぐらい、その他のアイドルについてもサンプル盤をいただいたものについては一度耳にする程度だ。本当に申し訳ない。

そんな人間が担当するこの企画。そりゃもう始まる前から、「きっと知らない曲ばっか流れてきて、自分の無知っぷりが公衆の面前に晒されることになるんだ……」ってビクビクしてるわけですよ。そんな及び腰で試聴会を実施する都内某所へ向かい、担当者からiPhoneなどに付属している白いイヤホンを手渡され、何の文字情報もなしに1曲1曲聴いていく。全部で5曲聴いたわけだが……あれ、これ楽しいぞ? なんの予備知識も与えられず、目の前には文字情報も一切なく、決して高水準とは言えないイヤホンを通して、音にだけ集中する。1曲目から知らない曲だったが、ここまでアイドルソングと真正面から向き合ったのはかなり久しぶりの経験かもしれない。歌や歌詞はもちろんのこと、演奏やアレンジの細部まで漏らさず聞き取ろうとしている自分に、正直驚いた。「あ、これは聴いたことがある」「これは……もしかして◯△の新曲?」などといろいろ想像しながら聴き、1曲聴き終えるごとにメモ程度の感想を残していく。それを繰り返すこと5曲。以下がそのときのメモ(初聴の感想)だ。

M1. スカの要素が強いエモ/パンク。しっかりしたバンドサウンドが印象的だが、楽曲自体はアイドルフォーマット。昨今のガールズバンド寄りだが、歌が没個性?

M2. ゆったりリズムのスカ調。合いの手につんくイズム感じる。最後の転調含め、ハロプロ以降の王道感が強いアイドルソング。聴いたことがある(最近聴いた?)。エビ中?

M3. 音圧が前2曲と比較すると非常に現代的。バンドサウンド重視の傾向だが、サウンドはでんぱ組.inc以降のもの。サビがどことなくマキシマム ザ ホルモンの「恋のメガラバ」を思い出させる。

M4. ゼロ年代以降のM3と相反し、曲の雰囲気が80年代アイドル歌謡的。サビを曲タイトル(さよならサーフボード?)で締めるあたりの王道感も懐かしい。が、 落ちサビ含め全体の構成がAKB的。歌声を聴くとAKBのような気もする。

M5. 擬似GS、オールディーズ感。懐かしのハロプロ感もあり。昔のハロプロのカップリングにありそうな曲。アレンジ含め、構成がシンプル。って、ももちの声? カンガル?

以上のような初聴の感想を経て、担当者と答え合わせ。正解は以下のとおりだ。

M1. つばさFly「The Endless Summer」(同名シングルより)
M2. 私立恵比寿中学「ナチュメロらんでぶー」(配信EP「FAMIEN’15 e.p.」より)
M3. 虹のコンキスタドール「THE☆有頂天サマー!!」(同名シングルより)
M4. AKB48「さよならサーフボード」(シングル「ハロウィン・ナイト」より)
M5. カントリー・ガールズ「ためらい サマータイム」(シングル「わかっているのにごめんね/ためらい サマータイム」より)

いい線いってる。というか、事前に聴いたことがあったのは5曲中1曲のみ、なんとなく歌っているアーティスト名を予想できたものが5曲中3曲。虹コンに関してはテレビで流れていたのを耳にしていたはずなのに、まったく気付かず。ええ、各方面に土下座したい気持ちでいっぱいです。

さあ、気を取り直して。ここからは改めて曲を聴き直しての感想(いわゆる楽曲レビュー)。その前に、僕個人がアイドルソングに求めるもの、アイドルソングに対する考えを記しておきたい。

「アイドル」というのは音楽ジャンルの名前ではない。だからこそ、彼ら/彼女たちが歌う楽曲の音楽性は限定されず、多岐にわたる。1人/組のアイドルがシングルごとに曲調やジャンルを変えるのはもはや当たり前のことだし、もちろんある特定の層を狙ってジャンルを絞って活動することもある。前者で言えばAKB48や初期〜中期のモーニング娘。がそれに当たるだろうし、後者の代表例としてはBABYMETALが挙げられる。しかし、ざまざまなジャンルに挑戦しつつも大事になってくるのが「アイドルが歌う必然性」だと、個人的に感じている。BABYMETALはどれだけメタルに接近しようが、曲を聴いたときにアイドルソングだと実感できる「色」や「個性」を常に兼ね備えているし、だから今でも彼女たちのことを信頼できる。楽曲がどれだけ各ジャンルに特化しようが、「アイドルが歌う必然性」だけは忘れてほしくないのだ。

以上を踏まえて、今後の連載を読んでいただけると幸いだ。

M1. つばさFly「The Endless Summer」
最初の感想には書かなかったものの、つばさFlyのこの曲を最初に聴き終えたとき、担当者に「正直、ここまで来るとアイドルが歌う必然性が感じられないんですよね」と口頭で伝えたのを覚えている。今回はアイドルソングの括りで聴かされたが、何も知らされずにこの曲を聴いたら誰もアイドルが歌っていると思わず、新たなガールズバンドの楽曲だと感じるはずだ。それくらいバンドサウンドが印象的で、ダイナミックなドラムと動きのあるベースライン、スカのリズムでカッティングするギター、それらが効果的に活きるアレンジとエモーショナルなメロディ含め、個人的にはどストライクな1曲だった。
しかし、先に書いた「アイドルが歌う必然性」が希薄な気がしてならない。もちろんこれは個人的な解釈なので反論もあるだろう。ただ、僕個人が求めるアイドルソングからは外れる、というだけのことだ。ただ、何度も言うが楽曲はとても素晴らしく、先の試聴会以降は何度も聴き返しているくらい。でも「アイドルソング」と括ってしまうと、どうしても自分の求めるものとは異なってしまうのだ。改めて、アイドルソングとは何なのか?を考えるきっかけをくれた、この企画の1曲目にうってつけの楽曲だったのかもしれない。

M2. 私立恵比寿中学「ナチュメロらんでぶー」
実はこの取材当日、エビ中のメンバーにインタビューをしており、前夜はその準備のためにエビ中の楽曲を聴き返していた。当然この曲が収録された配信限定EP「FAMIEN’15 e.p.」も聴いていたのだが……確信を持ってエビ中の曲だと言い切れなかった自分が歯がゆい。
それはさておき。エビ中にはトリッキーな楽曲と王道なアイドルソングが混在しており、ファンにおいてもどのエビ中が好きかで見方が変わってくるかもしれない。10月リリースのニューシングル「スーパーヒーロー」なんてそのもっともたる例ではないだろうか。この「ナチュメロらんでぶー」については最初「合いの手につんくイズム感じる。最後の転調含め、ハロプロ以降の王道感が強いアイドルソング」と感想を書いたが、そもそもエビ中の楽曲自体がとてもハロプロ後継者的テイストだとずっと感じていた。初期からヒャダインが携わっているのも大きく影響しているのかもしれないが、特に今回の「ナチュメロらんでぶー」はその色合いが強く現れた1曲ではないだろうか。この、適度な脱力感と、どこかふざけつつもしっかり歌ってる感の混在は、往年のつんくイズムそのもののような気がしている。

M3. 虹のコンキスタドール「THE☆有頂天サマー!!」
今回聴いた5曲の中ではサウンドやアレンジ、テンポ感、歌詞の雰囲気、歌声がもっともゼロ年代的な楽曲だと感じた。ロックテイストを取り入れつつも、どこかオシャレさを感じさせるコード感。それでいてアニソン的なわかりやすいメロディを兼ね備えているあたりは、先に書いたようにでんぱ組.incが確立した音楽感そのもの。だからなのか、これが虹コンの楽曲だと後で知って妙に納得したものだ。
つばさFlyの「The Endless Summer」にも共通しているのだが、静かで穏やかなイントロから一気に盛り上げていくこの構成は、もはやアイドルソングのひとつの“お約束”。確かに現場でこういう曲を鳴らされたら、そりゃテンションも急速に上がるだろう。落ちサビで静かになるパートも定番化しており、こういった強弱を巧みに取り入れるダイナミックさが現場では必須なのも納得がいく。ジャンルは違うが、NIRVANAやRADIOHEADの楽曲に用いられた強弱法にも共通するものがあるような気がするのだが、いかがだろうか?
なお、個人的な話になるが、この曲の制作に村カワ基成、ミナミトモヤといった知人が参加しているのを知って、思わず嬉しくなってしまったこと、2人が作曲や編曲に携わっていることを知り、妙に納得してしまったことも付け加えておく。

M4. AKB48「さよならサーフボード」
音質の悪いイヤホンで聴くと、どことなく古き良き時代の歌謡曲/アイドルソングを思い浮かべたが、改めてスピーカーなどを通してこの曲を聴いたら、どこからどう聴いてもAKB48でした……という1曲。前情報なしに聴いてみて、改めてAKB48の楽曲にはしっかりとしたフォーマットが存在するんだなということにも気付かされたし、没個性と言われがちな彼女たちの歌声も思っていた以上に個性的なんだという発見があっただけでも、今回の連載は自分にとって大きなものになったと思う。
メジャーコード進行なのにどこか夏の終わりを感じさせる物悲しさが漂うこの曲は、個人的にはかなり好みの部類だ。特にエンディングのアレンジは秀逸。これを先の選抜総選挙で決定したアンダーガールズ(17〜32位メンバー)が歌っているというのも興味深い。AKB48のシングル表題曲にするにはちょっとだけ決定打に欠ける1曲だが、これまでのアンダーガールズ曲の中でも僕の中ではかなり上位に入る楽曲だったりする。こういう曲が「ハロウィン・ナイト」のカップリングに収録されているという事実含め、まだまだAKB48も面白いじゃないかと思わせてくれる。

M5. カントリー・ガールズ「ためらい サマータイム」
カンガルの2ndシングル「わかっているのにごめんね/ためらい サマータイム」は発売後にCDを購入していたのだが、なぜかPCにリッピングしておらず、それどころか封も切らずに未聴CDの山の下のほうに眠っていた。だからテレビで披露されていた「わかっているのにごめんね」は知っていても、この「ためらい サマータイム」だけはずっと聴いていなかった。本当に申し訳ない。
ハロプロには昔からこういったGS(グループサウンズ)テイストの楽曲が存在しており、その昔テレビ東京で深夜に放送されていた「ガレージ」という番組ではハロプロメンバーがGSの名曲カバーにも挑戦していた(これを収めたコンピシングル「ガレージ・オープニングソング集」も4作リリースされた)。それくらい、ハロプロにとってGSは切っても切れない影響の1つと言える(かもしれない)。しかし、この曲はつんく楽曲ではない。そういう意味では、制作陣からのつんく、および彼が作り上げたハロー!プロジェクトに対するリスペクトを形にしたものと言えなくもない。個人的には2015年夏に、ハロプロの新グループがこういう曲を歌っているという事実が嬉しくてたまらない。楽曲自体に強いクセはないものの、聴いてるうちにクセになって何度もリピートしたくなる1曲だ。
それと……ももちさんって、やっぱりどこに行ってもももちさんなんだな、と実感。やっぱり独自の個性を身につけた者は強い。

以上で「ディスクレビューの実験台」第1回は終了。果たして来月はどんな曲が待ち構えてるのか……もしかしたら僕は今後、積極的にアイドルソングを聴かないようにしたほうがいいのかもしれない……なんてことも考えつつ、この連載を楽しみたいと思う。


Edit:石井龍(2.5D)

西廣智一

西廣智一

音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。