特集

西廣智一の「ディスクレビューの実験台」
~#2 2015年9-10月発売の秋に聞きたいラブソング~

先月から正式にスタートした「ディスクレビューの実験台」。私が毎月TIP編集部に伺い、曲名など一切知らされない状態でiPhone付属の白いイヤホンを使ってアイドルソングを5曲聴き、それについてコメントしていくという……この「目隠しプレイ」が、実は1回目から気に入ってしまい、初回の記事が公開されてから「早く次の取材日が来ないかな?」と心待ちにしていた。いや、そう言ったら大袈裟かもしれないのだが、本当にそれに近い気持ちで第2回の準備を待ちわびていたのだ。

今月のテーマは「秋に聴きたいラブソング」。この、毎月聴かされる楽曲のテーマ自体は、実は楽曲の評価に関しては特に関係なかったりする。例えば今回だったら、先にテーマを知ったことによって「じゃあ今回は◯◯(アイドル名)の『×△□(曲名)』がくるかな?」なんて予想をすることもないし。このへんは選曲者の意図なので、私には関係ないのだ。

ということを事前に説明しておいて、今月の5曲を聴いた感想を以下に記す。

M1. ピアノとストリングスを軸にした、懐かしのハロプロテイスト。オーケストラヒットなどお約束の中にも、2コーラス目でちょっと現代的なサウンドも飛び出す。可もなく不可もなくな王道グループアイドルソングだが、実はこういった楽曲の制作が一番難しい気も。なんだかんだで一番安心して聴ける作風。

M2. オープニングのギターソロが48グループ的。BPM160超のテンポ感、曲構成、サビでの転調、終始ユニゾンでの歌唱などすべてにおいて48グループのステレオタイプ的楽曲。Aメロの LR(左右)で刻まれるギターリフの違い、そして2コーラス目ではそれがギターとピアノに変わっていたりと、アレンジの妙技を楽しめた。

M3. キラキラしたエレクトロテイストの4つ打ちナンバー。恐らくBPM120前後かと思われるが、そのテンポ感やサビで連呼されるフレーズ(口ずさみやすい)含め、非常に“入って”来やすい1曲。単に沸くためだけの楽曲というだけでなく、作家やアレンジャーの音楽的こだわりも垣間見れる。

M4. オープニングのゴージャスさ、グループアイドルならではの次々に重なり合うボーカルが好印象。これまでの3曲と比べると曲の雰囲気、歌声などが大人っぽい。決して新しいわけではないのにバックトラック、ボーカルワーク、アレンジ含め攻めの姿勢が感じられる。暑苦しさの一歩手前の力強さが心地よい。

M5. ピコピコ系のエレクトロ+16ビートを刻むバンドサウンドというアレンジのアップチューン。初々しいボーカルはまだ未完成ながらも、どこか惹きつけられるものがある。性急なリズムのバックトラックと浮遊感ある歌声が相反するもののように思えるも、絶妙にかみ合っていて気持ち良く響く。

以上のような初聴の感想を経て、担当者と答え合わせ。正解は以下のとおりだ。

M1. さんみゅ~「僕はココにいる」(シングル「トゲトゲ」より)
M2. NMB48「片想いよりも思い出を…」(シングル「Must be now」より)
M3. GEM「Baby, Love me!」(同名シングルより)
M4. 風男塾「もしも これが恋なら」(同名シングルより)
M5. sora tob sakana「クラウチングスタート」(シングル「夜空を全部」より)

今回も非常に興味深いセレクトだった。M1のさんみゅ~は聴いた瞬間「もしかしたら……」と感じていたし、M2のNMB48にしてもオープニングのギターソロを聴いてすぐに48グループのものだと気付かされたし。M3のGEM、M4の風男塾は正直誰の曲なのか名前を知らされるまでわからなかったが、曲を聴いた限りでは「これは嫌いではないぞ。むしろ好みだ」と素直に思えた。

前回も感じていたことだが、こうやって純粋にアイドルソングを聴くと、着実に活動を続けているグループには音楽的にもしっかりとしたカラーがあるのだと改めて気付かされる。特にsora tob sakanaを除く今回の4組からはそれを強く感じさせられた。と同時に、最近のアイドルソングの型が二極化しているのではないか?ということも実感させられた。これは極論だが……1つは80年代のアイドルソングからハロプロへと引き継がれた「歌を聴かせる、音楽を聴かせる」姿勢を持つ楽曲。そしてもう1つが48グループ以降の、現場での即効性が高い「沸くための」楽曲だ。これはどちらが正しくてどちらが間違っているということはなく、単純に作り手側の姿勢の違いだと思っている。これだけ無数ものアイドルが存在する現在なのだ、そのコンセプトがはっきりしているぶん、選ぶ側(=アイドルファン)も自身の嗜好に合ったものをセレクトすればいいだけのこと。

そんな中、私が今回選んだ1曲は最後に聴いたこの曲だった。

sora tob sakana「クラウチングスタート」

これはもう、一目惚れならぬ一“耳”惚れだった。この取材後に彼女たちについて調べ、「昨年7月に結成されたばかりで、メンバー全員が2000〜2003年生まれのローティーングループ」「楽曲制作、サウンドプロデュースを残響レコード所属のハイスイノナサのメンバー、照井順政が担当」という事実を知った。なるほど、それでこういう音楽が生まれたのか、と。冒頭のギターのフレーズに惹かれたのも、こういった事実を知った後ではなんとなく納得できてしまった。

初聴時の感想にも書いたが、このグループはボーカリストとしてはまだ未完成だ。それは年齢的なものもあるだろうし、アイドルとしての経験値もあるだろう。しかし、この危うさは(あえてこう言わせてもらいたい)は、このタイミングでしか出せないものであるのもまた事実。そこに音楽的に強い意思を持ったソングライター、ミュージシャンが加わることで生まれる「いびつなもの」……これもアイドルソングの醍醐味だったりする。つんく♂がBerryz工房や℃-uteを手がけたように、そして松井寛の楽曲を東京女子流が歌ったように。

時代は繰り返される。しかし、その表現方法は時代によってどんどん変化していく。sora tob sakanaが今後、どう成長していくのかは現時点ではまったく想像がつかない。しかしこの「クラウチングスタート」、そして同曲を含む1stシングル「夜空を全部」は間違いなく2015年における奇跡の1枚だ。

なおこの取材後、タワーレコード新宿店に出向いてこのシングルを入手したのは言うまでもない。


Edit:石井龍(2.5D)

西廣智一

西廣智一

音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。