特集

西廣智一の「ディスクレビューの実験台」
~#3 2015年10-11月発売のCDのカップリング曲5選~

早くも3回目を迎えた「ディスクレビューの実験台」。この連載をきっかけになのかどうかはわからないが、最近これまでご無沙汰していたアイドルのライブに行ったり、インタビューをする機会が増えている。と同時に、私自身のアイドル(ソング)熱が再び高まり、いろいろ観てみたい、聴いてみたいと積極性が増しつつある。2016年はいろんな会場に足を運ぶ機会がどんどん増えると思うので、体験についてアウトプットする場があればと思っている。

さあ、固い話は抜きにして。今月のテーマは「2015年10-11月発売のCDのカップリング曲5選」だ。特にアイドルのシングルのカップリング曲には良曲多し、なんて格言(?)もあるくらいなので、前のめり気味でリスニングに挑んだ。

改めて説明しておくと、この企画では私が毎月TIP編集部に伺い、曲名など一切知らされない状態でiPhone付属の白いイヤホンを使ってアイドルソングを5曲聴き、それについてコメントしていくというもの。この「目隠しプレイ」を終えた後に答え合わせを行い、その中からこの連載でレビューする1曲を決めることになる。以下が今月の5曲を聴いた感想だ。

M1.マイナー調のハードロックテイスト。グループアイドルならではの掛け合いやハモりなどもふんだんに取り入れている。メロディ的にアニソンに近いノリ?

M2.サウンド的にはモダンなクラブサウンドだが、メロディや曲のフォーマットは70年代のソウル/ファンク的。アレンジこそ異なるがハロプロの流れに通ずるものが。

M3.懐かしさを感じさせる王道感と、アメリカンポップス調アレンジ。安心して聴ける。かつ、この連載では珍しいソロアイドル(ゆっふぃー?)。複数の声が聞こえてこないだけで新鮮味が。

M4.あー、乃木坂46だ(笑)。アンダー曲「嫉妬の権利」。もうイントロの一音聴いただけでわかってしまう自分もどうかと。Bメロからサビへと流れる転調パートが特に好き。

M5.音使いこそ異なるが、イントロなどは90年代のB’zはじめとするビーイング系の香り。J-POP前夜の懐かしが逆に今聴くと新鮮に思える。落ちサビのアレンジ含め。

以上のような初聴の感想を経て、担当者と答え合わせ。正解は以下のとおりだ。

M1.i☆Ris「NEXTAGE」(シングル「ブライトファンタジー」より)
M2.PREDIANNA「Lovely Body」(シングル「DESTROY TYPE-A」より)
M3.寺嶋 由芙「ぼくらの日曜日」(シングル「いやはや ふぃ~りんぐ」寺嶋由芙 with ゆるっふぃ~ず より)
M4.乃木坂46「嫉妬の権利」(シングル「今、話したい誰かがいる」より)
M5.nanoCUNE「もやモヤ!DAY BY DAY」(シングル「グルぐるあーす」より)

今回もなかなか興味深いセレクトとなった。M1のi☆Risはアイドルよりもアニソンアーティストとして評価される機会が多いのではないだろうか。楽曲にもその違いが表れているのも面白いところで、一般的なアイドルソングとメロディの運び方に若干の違いがあるように思うのだ。あるいはアレンジなのだろうか……このへんについてはいずれ、識者の方々と一度話してみたいと思っている。PREDIANNAは今回が初聴。BPM高めの楽曲が多い昨今のアイドルソングの中では、このテンポ感/グルーヴ感は心地よいと感じたし、ローティーンの女子声との相性も抜群だと思う。M3のゆっふぃーは見事的中。この子は歌声のみならず音楽性含め独自の色を完成させつつあり、そこが最大の強みだと確信した。M5のnanoCUNEは「あれ、こんな感じだったっけ?」と予想外の驚きを味わせてくれた。そういう意味でも嬉しい出会いをくれた1曲と言えるだろう。そしてM4の乃木坂46については割愛(苦笑)。あまりに身近すぎる存在なので、評価に困る。ただ、こうやって5曲並べて聴いたときに、音作り(アレンジやマスタリングまで含め)のきめ細かさが飛び抜けていることに気付かされたことは付け加えておく。

アイドルソングのカップリングには良曲多しという話を先にしたが、と同時に「これ捨て曲じゃん!(笑)」というような投げやりな楽曲がたまにあったりするのもカップリングだったりする。この連載の#0で「昔はそういうクソ曲も笑って楽しむ余裕があった」的な話をしたが、それは今ほどアイドルの数が多くなかった時代の話。年間のリリース数も今の数分の1、あるいは数十分の1だったからこそ、ムッとしつつも「しょうがねえな……」で済ませられたのかもしれない。しかし、今はこれだけ数があるのだ、つまらない曲はスルーすればいいだけのこと。だって、もっと聴くべき曲が他にたくさんあるのだから。そういう意味では現在のほうがシビアなだけに、カップリング曲に対する力の入れ具合も以前とは違うのかもしれない。

また、アイドルを送り出す制作陣/作家陣からしたら、音楽的な「遊び」や「実験」ができるのもカップリングの強み。ハロー!プロジェクト(およびつんく♂さん)が面白かったのは、そういう音楽的なお遊びがたくさんあったからではないかと思うのだが(とはいえ、その実験が「ハズレ」のときもあったのも事実だが)。

最後に。シングルの表題曲に力を入れすぎて、カップリング曲のバックトラックやミックス、マスタリングに手間をかけないアイドルグループも多いように思う。表題だけゴージャスな音像なのに、カップリングになった途端に音がしょぼくなるケースは、特に最近増えているように感じる。バックトラックを自宅で手軽に作れるようになった時代だからこそ、ボーカルとのミックス含め最後の仕上げは丁寧に行ってほしい……これは私からの本気の「お願い」。

さあ、それでは今回私が選んだ1曲についてレビューしていきたいと思う。

寺嶋 由芙「ぼくらの日曜日」

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これだけグループアイドルが乱立し、圧倒的な人気と動員をのばし続ける中、ソロアイドルはかなりの苦戦を強いられている……そんな話をここ1、2年よく耳にする。80年代前半まではソロアイドルが時代を席巻し、グループアイドルといっても3人組、多くても5人組程度だったものが、おニャン子クラブ以降でその流れは大きく変わった。もちろん、何がウケるのかはその時代によって変わっていくもの。たまたまソロアイドルが時代の流れと合わなかっただけ……そう考えれば、何となく納得もいくように思う。

しかしソロアイドルは決して消え去ったわけではない。2000年代前半のハロプロには松浦亜弥や藤本美貴がいたわけだし、以降も真野恵里菜、吉川友だっていた。AKB48からも前田敦子や板野友美などがソロデビューし、グループ卒業もソロシンガーとしてキャリアを積んでいる。さくら学院卒業後にソロデビューを果たした武藤彩未も、今やソロアイドルシーンを代表する1人と言えるだろう。

寺嶋由芙もBiSという、一時代を築いたグループアイドルから独り立ちしたソロアイドルの1人だ。しかし、彼女の場合はもはや「元BiS」という枕詞は必要ないと感じている。グループ時代の音楽性やスタイルを引き継いでいるわけではないし、あえてそことは違うフィールドで戦おうとしているのだから。そういう「攻め」(と個人的には感じている)の姿勢に、私は好感を持っていた。

彼女がソロアイドルになってから発表した楽曲のほとんどは、黄金期と呼ばれた80年代のアイドル歌謡に準じたもの。あの時代に青春時代を過ごした者には懐かしさと同時に、甘酸っぱい10代の思い出が脳裏に浮かぶことだろう。ノスタルジーに浸るだけと口の悪い人は言うかもしれないが、視点を変えれば「どの時代にも通用するエヴァーグリーンな楽曲」と向き合っているのが寺嶋由芙というアイドル。そういう意味では、今の10代のアイドルファンに彼女の楽曲がどう響いているのか、とても気になる。

この「ぼくらの日曜日」もオールディーズテイストのバンドサウンドを軸にしたポップチューンで、歌詞では時代を感じさせない普遍的な世界が歌われている。人によってはこれが2015年の楽曲だと気付かないかもしれない。それくらい「エヴァーグリーン」という表現がピッタリな1曲なのだ。この何気ない、ずっとそこにあるようなポップソングはそう簡単に作れるものではない。聴き流してしまいそうでいてどこか耳に引っかかるフレーズと、一度聴いたら口ずさめてしまうメロディ。強く主張しないアコースティックギターの音色が心地よさを演出することで、聴く者の懐にスッと入ってくる。シングル表題曲のような派手さはなく地味と言えば地味、しかし聴き込めば聴き込むほどに味わい深い、「これぞカップリング曲」と呼ぶにふさわしい良曲なのではないだろうか。こういう出会いがあるからアイドルソングは面白いし、聴くのをやめられないのだ。


Edit:山口美佳(2.5D)

西廣智一

西廣智一

音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。