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西廣智一の「ディスクレビューの実験台」
~#4 地方からシーンを盛り上げるアイドルグループ曲5選~

2016年が明けて、早くも1ヶ月が経とうとしている。この年末年始はアイドル界隈でもカウントダウンライブがあったり、年明け早々に特番でアイドルが勢揃いしたりと、「いつ終わる?」と常々言われ続けてきたアイドル“ブーム”がいよいよ“文化”へと移行するタイミングに入ったのかもしれない……そう考えることが何度かあった。

2000年代後半の「戦国時代」に登場したグループも、そろそろ結成10年近くを迎えようとしている昨今。その頃に誕生したアイドルグループの数は以前よりも減り、特にここ1、2年は次々に新たなグループがシーンに現れ、「他とは違った」個性を売りに活動を続けている。実際そういった「突き抜けた」存在が強い支持を集めつつある一方で、「アイドルとは?」という根本にある命題と向き合い、あえて王道スタイルで突き進もうとするグループも存在する。また2015年は解散や活動休止、メンバーの加入・脱退の情報が続いたのも印象的だ。そういう意味ではアイドルムーブメントは今、過渡期に入っているのかもしれない。単なる“ブーム”としてこのまま終わるのか(そう、ブームはいつか終わりを迎えるのだ)、それとも“文化”として定着するのか……その分岐点となるのが2016年なのではないか。個人的にはそう考えている。

……なんて堅苦しいことを新年早々書き綴ってみたが、不安要素しかないわけではない。もちろん明るい話題にも期待しているし、今年ブレイクするのではないか?なんて楽しみにしているグループも多々いる。そんな中でスタートする新年一発目の連載、今回のテーマは「地方からシーンを盛り上げるアイドルグループ曲5選」。個人的にはコアなアイドルファンしか知らないような気鋭グループの曲が次々と流れるのかと思っていたが、実際は違った。

改めて説明すると、この企画では私が毎月TIP編集部に伺い、曲名など一切知らされない状態でiPhone付属の白いイヤホンを使ってアイドルソングを5曲聴き、それについてコメントしていくというもの。この「目隠しプレイ」を終えた後に答え合わせを行い、その中からこの連載でレビューする1曲を決めることになる。以下が2016年1月の5曲を聴いた感想だ。

M1. キラキラしたシンセが印象的な、EDMテイストのダンスポップ。低音のブリブリした感触が心地よく、線の太い歌声との相性も抜群。メジャーのど真ん中で勝負しても負けないだけの完成度とカラーを持っているのでは? すごく普通のことをやっているようで、実はめちゃくちゃ力の入った渾身の1曲。

M2. イントロでの劇的アレンジから次々と展開を繰り返す、シンセ中心のアップチューン。大人数アイドルの特色を生かしたボーカルアレンジと、ハロプロ〜でんぱ組の流れを汲む楽曲は好印象。もしかして……と思ってたら、途中でLinQと気付く。この曲だけこういうテイスト?

M3. Negiccoかな? ブラスを導入した、80′sテイストのAORダンスポップ。懐かしい音色が飛び出して度肝を抜かれるも、1周回ってカッコいい。そしてボーカルワークも絶妙。1人ひとりの歌唱がしっかりしており、それぞれがちゃんと外で戦える力を持っている気が。オーバー40には安心安定の楽曲。

M4. ブーストのかかったハードロックサウンドにちょっと間の抜けた女子声がかぶさる違和感と、サビでの純粋なアイドルアレンジ。これはロックおじさんが好きそうなテイスト。つまり、私のど真ん中。これは音源で楽しむというより、ライブで一緒にハジけるための1曲かな。

M5. 前曲同様バンド色を軸にしたアップチューン。こちらのほうが軽やかで、ピアノを前面に打ち出しているせいか耳障りも良い。A〜Bメロの音数の少なさもインパクトが強く、サビでの爆発力も抜群。バンドサウンドの皮を被った、純粋なアイドルソングという印象。大好き。

以上のような初聴の感想を経て、担当者と答え合わせ。正解は以下のとおりだ。

M1.ミライスカート「COSMOsSPLASH」(同名シングルより)
M2.LinQ「LinQuest〜やがて伝説へ…」(同名シングルより)
M3.Negicco「ねぇバーディア」(同名シングルより)
M4.ミルクス「ワンダーガール」(シングル「魔法使いサリー/とんちんかんちん一休さん」より)
M5.Dorothy Little Happy「Restart」(同名シングルより)

先にも書いたように、もっとインディーズに毛が生えたようなグループの楽曲が来ると思っていたら、どれもメジャー級の(いや、ドメジャー級も含まれているが)グループ&楽曲ばかり。前回の連載でバックトラックやマスタリング云々に触れたが、今回聴いた5曲はどれも高水準で、もはや活動拠点と音源のクオリティは無関係……首都圏で活動していないからと言って、音源のクオリティを言い訳にはできないわけだ。

こうやって改めて名前を見ると、京都(ミライスカート)、福岡(LinQ)、新潟(Negicco)、北海道・札幌(ミルクス)、宮城・仙台(Dorothy Little Happy)といわゆる地方都市が多いことに気付かされる。あまりド地方という印象がないのは、そのせいもあるだろう。実際LinQやNegicco、ドロシーあたりは大都市でのライブやイベント出演も多いので、もはや地方出身グループという印象は希薄かもしれない。3組ともオリコンシングルランキングで上位入りすることが多いのも、そういった印象に拍車をかけている。その一方で、いまいち抜けきれてないイメージが拭いきれないのも事実。48グループやハロプロ、スタダ勢、でんぱ組のようにアリーナ規模まで躍進するには何が必要なのか。実はこのへんも、最初に書いたことにつながってくる。こういった「アイドルファンなら知らない人がいないグループ」を一般層にも浸透させることが、2016年のアイドルシーンに課された命題なのではないだろうか。

さあ、それでは今回私が選んだ1曲についてレビューしていきたいと思う。

Dorothy Little Happy「Restart」

2015年のドロシーにはどこか「不運」というイメージがつきまとっていた気がする。いや、2011年のTIFでの「デモサヨナラ」以降、どこか“抜けきれない”状態が続いていたと言ったほうが正しいのかもしれない。そんな状況下だった2015年、ベストアルバム「The best of Dorothy Little Happy 2010-2015」で過去にひと区切りをつけたかと思えば、callme組の卒業とレーベル移籍。メンバーはKANAとMARIの2人だけになり、活動を継続することに。こうしてリリースされたのが、移籍第1弾シングル「Restart」だ。

個人的にはcallmeのアルバム「Who is callme?」をヘヴィローテーションした2015年だったこともあり、実は新生ドロシーの新曲は未チェックだった。今回の企画で名前を伏せ、初めてこの「Restart」を聴いたわけだが、どういうわけか心のど真ん中に突き刺さってしまった。もともとバンドアレンジもののアイドルソングは大好物だし、今月の5曲の中ではミルクス「ワンダーガール」も同スタイルの楽曲と言えるのだが、実はこの2曲は異なる地点からスタートしている気がするのだ。これは勝手な憶測だが、ミルクスのほうは「こういう(ライブでの盛り上がり必至の)楽曲を作る」という点から制作が始まっており、ドロシーのほうは「単にグッドメロディのアイドルソングを書き下ろし、どのアレンジがもっとも合うのか試す」というスタンスなのでは、と。これは「卵が先か、ニワトリが先か」的な違いがあるのではと言いたいだけで、これによって2曲の優劣を付けたいわけではないのでご理解いただきたい。

さて、改めて「Restart」の話へ。メンバーが5人から2人になったことで、個々の歌割りは格段に増え、それによってKANAとMARIのカラーがより強まったことはグループにとってプラスだったのではないだろうか。2人のハーモニーを強調しつつ、それぞれの歌唱力の高さもアピールする。それにはどういった楽曲が必要なのか。もちろん過去のドロシーのカラーも残しつつ、新たなイメージを与えるには……そのすべての答えがこの「Restart」にあるとは正直言いきれない。ただ、間違いなく「ドロシー本来の魅力」と「新たな可能性」はこの曲から感じられた。文字通り“リスタート”を飾るにはうってつけの1曲ではないだろうか。

後日、このシングルをiTunes Storeにて購入し、カップリング曲含めて聴き返してみた。「Restart」以外にも「この世界が終わる前に」というロックチューンが収録されていたが、このスタイルに固執せず、あくまで「新たな手札の1枚」程度に、これからも「ドロシーらしい良曲」を提供し続けてほしい。そして彼女たちのようなグループが報われる“文化”が確立され、これまでつきまとってきた「不運」のイメージが完全払拭されることを願うばかりだ。


Edit:山口美佳(2.5D)

西廣智一

西廣智一

音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。