特集

西廣智一の「ディスクレビューの実験台」
~#5 旅立ちの春に聞きたい卒業ソング5選~

唐突だが、この連載は今回が最終回となる。昨年夏にプレスタート、10月に第1回を掲載とまだ1年も経っていないこの「ディスクレビューの実験台」。言いたい放題書いてきたから、アイドル関係者から干され終了に追い込まれた……というわけではない。個人的にはこの続きを引き取ってくれるところがあれば、ぜひ連載を続けたいくらいの気持ちだ。とはいえ、いろんな大人の事情があるので仕方ない。最終回らしくキレイに締めくくりたい。

というわけで、今回のテーマは「旅立ちの春に聞きたい卒業ソング5選」。シーズン的にもこれから卒業ソングがわんさかリリースされることだろう。一時期と比べればその数も少なくなったと言われる卒業ソングだが、ここアイドルシーンにおいても心に残る卒業ソングは数多く存在する。一般的な学生生活における卒業から、アイドルらしくグループを卒業する者へ向けて(もしくは卒業する当人たちが)歌う卒業ソングまで、その内容はさまざま。今回の「目隠しレビュー」ではここ数年のうちにリリースされた楽曲からピックアップされたとのこと。さて、どんな曲が選ばれたのだろう。

最後になるが、改めて説明しておく。この企画では私が毎月TIP編集部に伺い、曲名など一切知らされない状態でiPhone付属の白いイヤホンを使ってアイドルソングを5曲聴き、それについてコメントしていくというもの。この「目隠しプレイ」を終えた後に答え合わせを行い、その中からこの連載でレビューする1曲を決めることになる。以下が2016年2月の5曲を聴いた感想だ。

M1. オープニングのピアノ&ストリングスの音色がいかにもな、王道の卒業バラード。歌詞を聞いた瞬間に、SKE48「それを青春と呼ぶ日」と気付く。メンバーとファンとの間の「卒業」を歌っているため、限られたリスナーに向けて強く響く楽曲かと。これぞ48グループといった印象。

M2. バンドサウンドを強調した、アップテンポの明るい卒業ソング。グループアイドルならではのユニゾン&輪唱が、特にサビで気持ちよく響き、聴いていて前向きな気持ちになれそう。ただM1と比べて音圧の低さ、歌詞の平凡さが気になってしまい、歌の中身が入ってこなかったのが残念。

M3. コード進行にカノンコードを取り入れており、曲冒頭のメロディから早くも王道感を強く打ち出している。全体的にピアノとアコースティックギターを基調にした、アップミドルの心地良いアレンジ。Aメロの音数の少なさが好印象で、歌が入ってきやすい。

M4. バンドサウンドを軸にしながらも、パートごとのアレンジや音使いに遊び心が強く感じられる。またグループアイドルながらもソロパートが多いことで、聴いていて飽きがこない。歌詞も陳腐になりすぎず、ついつい引き込まれてしまった。

M5. イントロのピアノで涙腺が緩むももクロ「青春賦」。たぶん今回の5曲の中で一番「卒業式」にピッタリで、普遍性を持った1曲では。個人的には映画「幕が上がる」との相乗効果もあって、涙を禁じ得ない。セリフパート、ハーモニー、アレンジ含めて完璧な名曲。

以上のような初聴の感想を経て、担当者と答え合わせ。正解は以下のとおりだ。

M1. SKE48(旅立ち卒業組)「それを青春と呼ぶ日」(シングル「チョコの奴隷」より)
M2. アイドルカレッジ「少女卒業」(シングル「少女卒業/YOZORA」より)
M3. X21「明日への卒業」(同名シングルより)
M4. さくら学院「Capsule Scope」( シングル「Jump Up ~ちいさな勇気~」より)
M5. ももいろクローバーZ「青春賦」(同名シングルより)

個人的な印象だが、卒業ソングって作るのが簡単そうで実はすごく難しいジャンルじゃないかと思っている。「卒業」というワードさえ使ってしまえば手軽にそれっぽくなるのかもしれないが、必ずしもそれが心に残る、あるいは後々に歌い継がれる楽曲になるとは限らない。そう、卒業ソングはその年の春だけのものではなく、来年の春も、再来年の春も、この季節になったら毎年歌い継がれるようなものになっていなければ意味がないのではないかと。そうすることでアイドルソングとしてはもちろんのこと、ポップスとしても普遍的な魅力を持った1曲になるのではないかと思うのだ。

いかに「卒業」という限定ワードを使わずにその世界観を表現するか。今回の5曲の中で、歌詞やタイトルに卒業というワードを使っていないのはM1、M4、M5の3曲のみ。M2とM3はタイトルから大々的に卒業と銘打っている。興味深いのはアイドルカレッジもX21も、ともにこれがメジャーデビュー曲ということ。たまたまリリースタイミングが2、3月ということでこうなったのかもしれないが……メロディやアレンジなどの評価はどちらも高いが、先に書いたようなポイントから今回は「う〜ん……」と感じてしまったのも事実だ(もちろん、これがグループ自体の評価というわけではないので、そこは勘違いしないでほしい)。

もうひとつ興味深い点について。M1とM5……SKE48とももクロの歌詞のテーマにおいて、届けたい対象のベクトルが完全に真逆だということ。2曲とも卒業というワードは一切使っていないが、SKE48はファンに向けた内向きのメッセージソングであり、ももクロのほうは単なる学生の卒業だけではなく、もっと広い意味での「別れ」や「旅立ち」を歌っている。前者は歌う場面や歌う人を選んでしまう可能性が高いものの、ファンにとっては忘れられないほど思いの強い楽曲になるだろうし、後者は日常生活にも馴染む、真の意味でのエバーグリーン的楽曲になるのではないかと。ほぼ同じ時期に登場し、いまだに第一線で活躍し続けるSKE48とももクロが、こういった対極の卒業ソングを歌うのがすごく面白いなと改めて思ってしまった。

さて、最終回の1曲に選んだのは、上で触れていないこの曲だ。

さくら学院「Capsule Scope」

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さくら学院はグループのコンセプト上、毎年3月には卒業生が誕生する。それもあって毎年のように卒業ソングが制作されており、「旅立ちの日に」や「仰げば尊し」といったスタンダードナンバーに加え、「My Graduation Toss」「Jump Up 〜ちいさな勇気〜」などのオリジナル曲など、その数は昨今のアイドルグループで一番ではないだろうか(調べていないので勝手な妄想にすぎないが。もし違っていたら申し訳ない)。

今回取り上げた「Capsule Scope」は2014年2月発売のシングル「Jump Up 〜ちいさな勇気〜」のカップリング曲で、ともに卒業や別れをテーマにした楽曲だ。作詞・作曲・編曲を手がけるのはAKB48「ポニーテールとシュシュ」「フライングゲット」、NMB48「オーマイガー」「ナギイチ」の編曲、ももクロ「白い風」「キミノアト」「Link Link」の編曲など、アイドルファンにはおなじみの生田真心。先にも書いたように、バンドサウンドを軸に、要所要所で遊び心満載のアレンジが施されている。バックトラックのみを聴いていても飽きがこない、聴きごたえのある1曲といえる。

そして歌詞には別れをイメージさせるワード(直接的な「サヨナラ」など含む)、「教室」「上履き」「グラウンド」など学校生活に欠かせない単語がふんだんに散りばめられている。ストレートに「卒業」と歌われるとどうしても卒業式のシーンが頭に浮かんでしまうが、こういう歌詞のほうがそこに至るまでの学校での日常が思い浮かべやすかったりする。また、そういった日常の一場面に「眺めのいい部屋」「小さな恋のメロディ」「マイ フレンド フォーエバー」といった映画のタイトルを並べることで、いろんな妄想をかき立てられるのも興味深い。これを小中学生の純粋無垢な女の子たちが、ストレートに歌うことで生じる説得力といったら……アップテンポで明るい曲調とは裏腹に、聴く人によっては思わず涙腺が緩むのではないだろうか。音楽の授業で習うような合唱曲だけではなく、アイドルソングだからといって毛嫌いされずに、こういうポップな卒業ソングがどんどん浸透していくことを願うばかりだ。


Edit:山口美佳(2.5D)

西廣智一

西廣智一

音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。