特集

柴那典の「スポットライトの向こう側」
~vol.1 アイドルが「ブーム」から「カルチャー」になった理由~

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昨年のTOKYO IDOL FESTIVALの会場の様子

アイドルは「ブーム」から「カルチャー」になった。単なるトレンドではなく、日本のポップカルチャーの一角として、きっちりと根付いてきた。場が定着してきた。それがここ数年間のシーンの移り変わりを見ていての、筆者の正直な実感だ。

でも、ほんの数年前まで、そんなムードはどこにもなかった。AKB48の人気が絶頂になり、ももいろクローバーZがブレイクし、「アイドル戦国時代」という言葉が取り沙汰されていた2010年から2012年の頃。アイドルビジネスの市場は一気に盛り上がったけれど、正直、メディアや関係者の間では「果たしてこのブームはいつまで続くんだろうか」という雰囲気があった。いくつかのトークイベントで実際にそういう話になったりもした。

確かに、80年代にあれだけ盛り上がったアイドルブームは90年代に入ってあっという間に下火になっている。「アイドル冬の時代」だ。それに、どんなものだって、流行りはいずれ飽きられる。それがブームの宿命だ。

でも、どうやら今のアイドルシーンはそういうものではなくなっているみたいだ。一体何があったのだろうか?

およそ1年前、2014年6月に発売された週刊誌『AERA』のアイドル特集でそんなテーマでの取材を行った。そこでインタビューをさせてもらったのが、「TOKYO IDOL FESTIVAL」(以下TIF)を立ち上げたフジテレビ・門澤清太氏、2014年から新たにTIFプロデューサーに就任した同・神原孝氏。また、タワーレコード・嶺脇育夫社長、そして「夢みるアドレセンス」のプロデューサーをつとめる博報堂DYメディアパートナーズの伊藤公法氏にも取材させてもらった。

インタビューをした中で、印象的だったのは門澤氏の「ここ数年で、アイドルがブームではなく文化として受け入れられる素地ができた」という発言。2010年にTIFが初開催されてから数年間で場のムードは大きく変わってきたという。最初は特定のアイドルの熱烈なファンも多かったが、だんだん“DD”(=誰でも大好き)と呼ばれるファンが増えてきた。「アイドル戦国時代」と言われていた頃はグループ同士が人気を競い合うようなムードもあったが、だんだんそれぞれが多様性の中で共存しあうようになってきた。

そもそもTIFの開催を決めたのも、AKB48の人気拡大を前に「一人勝ちの状況が生まれてしまうとそのグループが失速した時にシーン全体が終わってしまう」という危機感が背景になっていたのだという。

「たとえば動物園にエリマキトカゲしかいなかったら、エリマキトカゲのブームが去ったら全てが終わってしまう。そういったことが、かつてのアイドルのカテゴリーでもあった。ブームではなく文化として根付かせるために大事なのは多様性なんです」と、門澤氏は語っていた。今は、キャラクターや音楽性など様々な特徴を持った多数のアイドルグループが全国に点在している。2010年代のアイドルシーンが「ブーム」から「カルチャー」になった一つのキーは、“多様性”にあったと言える。

そして、もう一つのキーが“継続”だ。

「レーベルを始めた時から、大事なのは継続だと思っていました」と語っていたのは、タワーレコード・嶺脇社長。同社のアイドル専門レーベルT-Palette Recordsは2011年6月設立だ。バニラビーンズとNegiccoの2組のみでスタートしたレーベルは、徐々に所属グループを増し、今年で4周年を迎える。

また、2010年代に入ってから、全国のタワーレコードを筆頭にしたレコード店は単にCDを売る場所だけでなく、様々なインストアイベントを行う場所へと進化していった。ファンだけでなく、音楽ファンや様々なお客さんがアイドルのパフォーマンスを見ることのできる場所として定着した。

「地方のレコード店でもインストアイベントが開かれ、地元のアイドルを応援する風景が当たり前になりました。通りすがりのお客さんが無料でアイドルに触れることができる。そういう “場”をレコード店が作ったということは大きいはずです」

嶺脇社長はこう語っていた。マスメディアだけでなく、それぞれの地元でアイドルが活躍する場が継続して根付いたことも大きいはずだ。

また、アイドル運営に自ら名乗り出た博報堂DYメディアパートナーズの伊藤公法氏は、アイドルビジネスの新たな市場の可能性をこんな風に語ってくれた。

「BtoCだけでは限界があります。そこだけに頼っていてはマーケットが立ち行かなくなるのは見えている。そこで可能性があるのはアイドルをBtoBのビジネスにすること。ファンコミュニティを企業と結びつける。そのエコシステムを作ることでアイドル文化が継続的なものになるはずです」

三者の話に共通していたのは、アイドルビジネスの裏方として、アイドルとファンが繋がることのできる“場”を継続的に作っていくという意志。もちろん他にもそういう考え方を持った人は沢山いたと思う。単に「今は◯◯がキテるから」とか「◯◯の流行に乗っかって」というだけじゃない、シーンを支える意識を持った人が集まったことが、アイドルがブームに終わらなかった一因でもあると思っている。

そして、日本のアイドルシーンは次なる段階に足を踏み入れているとも言える。TIFプロデューサーのフジテレビ・神原孝氏は、「今の女性アイドル文化は日本にしかないもの。その魅力を海外にも打ち出していきたい」と語っていた。3月にスタートしたばかりの「TOKYO IDOL PROJECT」も、その基盤の一つになっていくはずだと思う。

期待しています。